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武蔵野航海記

武蔵野航海記

オノレ・ド・バルザック

高校生の一時期、私は夢中になってバルザックを読んでいました。

バルザックは少しいかがわしい男です。そして成金趣味です。

実際は平民の出なのに、自分で勝手に貴族であることを示す ド(de)を名前に挿入しました。

そして骨董屋に騙されては、名門が持っていたという道具の偽者を集めていました。

彼が死んだ時財産を整理した人物が、彼ほど物を見る眼がない男も珍しいと驚いたそうです。

彼は人気作家でしたから、小説の印税でゆったりと生活していれば良かったのです。

しかし大金持ちになりたいと思って、何回も事業を興しては大失敗して、巨額の借金を作ってしまいました。

借金を返済するためにお金が必要だったので、朝から晩までコーヒーをがぶ飲みしながら小説を書いていました。

なにしろ一日八杯コーヒーを飲んでいたというのです。

借金返済のためとはいえ膨大な小説を書きましたが、それぞれの小説が皆繋がっているのです。

ある小説では脇役だった男が別の小説で主人公になるという具合です。

登場人物を数えた暇人によると全部で四千人になるそうです。

バルザックはこの四千人の織り成す人間模様を「人間喜劇」と名づけました。

彼の小説の主題は「情熱」です。

その情熱の種類は問いません。盗みと騙しに対する情熱と貴婦人に対する情熱に差異を認めないのです。

彼が問題にするのは、「情熱」の量です。

そして「人間喜劇」に登場する主人公は皆並外れた量の情熱を持った者ばかりです。

バルザックは、22歳のとき、44歳の貴族夫人で九人の子持ちと恋をします。

彼女が「谷間の百合」の主人公である伯爵夫人のモデルです。

そして晩年になり借金に追い立てられた彼は、ロシアの金持ち貴族の未亡人とやっとの思いで結婚します。そして結婚直後に死んでしまいました。

バルザック自身が異常なほどの「情熱」の持ち主だったのです。

長い間、バルザックを忘れていた私ですが、また彼の作品を読み始めました。

そして改めて思いました。

人は情熱を持ち続けなければならない と。


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